とある街角のとある料理店。このお店では、色んな料理が提供されており、様々なお客さんに満足してもらおうと店主は日々、努力を重ねています。
今回の新メニューは煮物。和風ダシに野菜や肉がたくさん入った一品です。料理というのは好みがありますから、美味い!と言うお客さんもいれば、不味い!というお客さんもいます。そこで店主は、煮物をより良いものにするべく、お店の一角に専用のテーブルを設けました。この煮物を美味しくするためにはどうすればいいか、意見を出して欲しいと。お店が大好きな客は、このテーブルに集まっては色んな意見を出し合います。もう少し味を濃くしたら?こんな野菜を入れてみたら?素材の切り方を変えれば食感が変わるかも?などなど、この煮物を美味しくしようと真剣です。
ある時、そんな席に思いもよらない客が来ました。テーブルに置かれている煮物の皿をひっくり返し、こんな不味い料理食えるか!世の中もっと美味い料理がある!この店は何を考えてこれを出している?!とひどく煮物にお怒りの様子。さらには別の客が現れて、自分が食べたいのは煮物じゃなくてステーキなんだと言い出す始末です。席で検討していた客は、突然のことに驚き、そして困惑します。このテーブルって煮物を美味しくする方法を考える場所だよね?煮物への不満を言う場所じゃないよね?ステーキ食べたいなら別の席に座って注文すればいいのに?と。
でも、同じお店の客同士だし、料理の好みは様々だからケンカをしたいわけでもいがみ合いたいわけでもなく、ましてや店から出て行って欲しいわけでもなく、同じお店を愛する者同士として思うのは、それぞれのテーブルに座り、それぞれの料理を楽しんでほしい、ただそれだけのこと。
じゃあ煮物への不満は誰に言えばいいのでしょう?それはやはり店主に直接伝えるべきで、少なくとも煮物検討会の席にわざわざ来て、店主の耳に入るようにと聞こえよがしに大騒ぎするものではありません。そんなことをすれば、客同士の諍いの種になりますし、店自体の評判が悪くなるという状況になってしまいます。お店の料理は好きだけど今回の煮物は嫌いだと言いたい客も、決してそんな状況は望んでいないはず。
お店にはもっと美味しい料理を出してほしい、お店を繁盛させるためにはこの料理じゃダメだ、お店がなくなって欲しくないからこそ煮物じゃない料理を!そうした思いで店主に進言したいという気持ちは当然です。でも、お店のことを真剣に考えたどれだけ良い意見であっても、願いを込めた意見であったとしても、言うべき場所を違えてしまったら、その思いは伝わりません。
客同士のいざこざが起きてイヤな思いをするくらいなら、いっそのこともう、お店からそのテーブル自体を無くしてしまう、それも一つの方法ですが、意見に意見を重ねて煮物を美味しくする方法を考えるという場所がなくなってしまいます。まずは、テーブルをなくす前にその使い方を周知徹底し、客同士がきちんとそれに従えば済む話だと思います。
新メニューの煮物を美味しくしてお店を繁盛させるためには何をどう変えれば良いのか、煮物を食べつつ、他の客の意見を聞きつつ、楽しく意見を出せるようなテーブルになってくれるといいな、このお店が昔から大好きな客の1人の意見でありました。