(注:物語のネタバレを激しく含みます)
自分達と同じように生命の営みを続けるもう1つの世界があり、自らに生じた破滅的な危機を、この別世界に移す以外に助かる方法がなかったとしたらその行為は悪でしょうか?許されるものでしょうか?
異界の女王イザベルは世界に生じた破滅の波「ラウアールの波」をジュリオとクリス達の世界に移すことを計画しました。
かつてはその世界からラウアールの波を転送され、破滅したことのあるイザベルの世界。自分の計画がどれほど悲惨な結果を招くものであるかは十二分に分かっていたはず。でも、それは何よりも愛する自分達の世界を守るため、何よりも大切な人々を守るために・・・。
いつの頃からでしょう、未来を知る力を持つ白き魔女ゲルドが自らの世界に迫る危機を、そしてそのために女王が悲しい過ちを犯そうとしていることに気がついたのは。
双方の世界が助かる道を模索するべく彼女が巡礼の旅に出た時、同郷の士からは裏切者の扱いを受け、またジュリオ達の世界においては不吉な予言をする恐怖の存在として憎まれ、忌み嫌われることになりました。
当時誰が白き魔女の抱えていた大きな苦しみ・悲しみを理解していたのでしょうか?
女王イザベルの計画の前に白き魔女ゲルドが立ちふさがった時、女王は1つの悲しい決断をします。自分達の世界を救うためにはゲルドを手にかけるしかないと。
運命のある日、ゲルドは同郷の占星術師レバスの凶刃に倒れます。20年にも満たない短い生涯でした。孤独な巡礼の旅の行く末に死が待ち受けていることを、志半ばで倒れることをゲルドは既に知っていました。
それでも彼女は旅を続けました。誰かが必ず遺志を継いでくれると信じ、自分の世界と、そして同じように生命の営みを続けているもう1つの世界のために。
時を隔てたジュリオとクリスの巡礼の旅を通じて、その遺志は引き継がれ、2つの世界は救われます。ゲルドは自らの魂を以ってラウアールの波を相殺し、世界から完全に姿を消してしまいました。
そんなゲルドの姿に、彼女の過酷な旅路を見守り続けてきた、見守ることしかできなかったデュルゼルは絞り出すかのようにつぶやきます。
「なぜ、そんなにも優しくなれる・・・。肉体を捧げ、そしてまた魂を捧げ、この世界がお前のために何をしてくれたというのだ・・・」
最終章のタイトルは「やさしき魔女」。
優しいからこそ強く、強いからこそ優しくなれるのであれば、人は自分はどこまで優しくなれるのでしょう?
これは生涯を通じて探していかなくてはならない「問い」なのだと思います。