266 夢幻世界から夢幻王国に

夢幻魔王イドが誕生して世界の脅威になったいきさつについて、ギルダが冒険の途中で説明してくれますが、元のシナリオにはナレーションでは語られなかったことがいくつか含まれている一方で、ナレーションで新たに付け加わったものもあるのが実に興味深いです。

ポポローグの中で語られる夢幻世界(語り手:ギルダさん)

ここより下が元シナリオの中身となります。

はるか昔・・・夢幻魔王イドは魔王なんて呼べる代物じゃなかった。眠りの中で見る夢の片隅に巣くうちっぽけな悪魔だった。それが、どうした訳なんだろうね。
いつしかそいつは、夢を『夢幻世界』という空間にする魔力を持つようになった。はじめは、眠っている人を夢ごと夢幻世界に連れて来て、ついには町や城まで、持ち込む力を得たのさ。イドはそうして『夢幻王国』を作り、自らを魔王と呼ぶようになった。
・・・はんッ!
ピエトロ王子。夢の中にさらわれるっていう、意味が分かるかい?自分の生きていく世界が全て、夢の中にしかないって事さ。つまり、自分自身が夢になっちまうんだ。しかも、イドというたった1匹の悪魔の夢にね。
もちろん大昔には、それはえらい魔法使いバスカル様ってのがいてね。イドの動きを知って、戦いを挑み、『夢の鏡』の中に封印し、王家の洞窟に閉じ込めた。それはそれは、幾夜にも渡る長い戦いだったと言われているよ。
相当苦労したようだが、本で読む限りカンペキな封印だったと思うよ。だが数十年前・・・としか分からないが、奴は復活しちまった。王家の洞窟で誰かが復活させたんだ。夢の鏡を割りでもしたんだろう。
あんたは王家の人間だ。その事について何か聞いているかい?

ピエトロ

・・・いいえ。

ギルダ

そうかい・・・。
どこかの彼方に消えていたイドが、あたしらの世界に舞い戻ってきたのは封印された復讐かね。以前よりも強力になって奴は襲ってきたんだ。もう封印もきかないくらいの力でね。

ピエトロ

じゃあ・・・、このままずっとぼくやお父さんやお母さん・・・お城や、町の人・・・それに、ギルダさんや・・・ナルシアも・・・ずっと、この夢の中から出られないんですか?

ギルダ

そう答えを急ぐんじゃないよ。夢幻世界に来ちまったって言っても、完全に夢に取り込まれる前ならば、いくらかは、抜け出す方法はある。
・・・だけどね、何と言っても一番いい方法はひとつだけさ。夢幻魔王イドを倒すことだ。それが、夢幻王国をなくし、取り込まれた人達全員を救う確実な方法だと思う。
行くかい?ピエトロ王子。

ピエトロ

ぼく・・・行きます。

ギルダ

とは言ってもね。まずイドの居場所を探さなきゃ。それにイドの魔力を弱めるなにかがないと・・・あんた死ぬよ。
せめて・・・イドを封印していた夢の鏡か、そのかけらでもあれば、何とかなるんだけどねぇ・・・。

ピエトロ

あの・・・ぼく、それがある場所、分かると思います。
ぼくがイドの居場所を突き止めて、ぼくが倒しに行かなければ・・・。

ナレーションでは、「イドは夢幻世界で自らを魔王と呼ぶようになった」としているところ、元シナリオでは、最初取り込んでいたのは人間のみでしたが、徐々に力を付けることで町や城を取り込めるようになり、そうして夢幻世界の中に夢幻王国を作り上げることで魔王になった、としています。

おそらくイドは、夢幻世界を作るだけでは飽き足らず、自らの存在意義を示すために自分の王国を作った、そしてその上で魔王を名乗るようになった、と考えられます。魔王と名乗るからには自分の国を作る、という発想は、ガミガミ魔王と共通するところでもありますね。

そしてイドが取り込むのは夢だけではなく、その夢を見る人間そのもの。実在する人間を自分の世界に取り込むことで強大な王国を構築することを目指したのだと思われます。この点について、かつてのポポロファンフェスタにおいて、ナル笛のシナリオを担当した藤崎淳一さんは、ナル笛のロビンとポポローグのロビンが違う理由について、「夢幻世界はその人の夢や願望を取り込むこともある」と説明していましたが、この人そのものを取り込もうとするイドの動きを踏まえるなら、夢や願望だけを取り込むとは考えにくいと思うんですけど、いかがなものでしょうか。

そしてギルダは夢幻世界に取り込まれることについて、「イドというたった1匹の悪夢の夢になってしまう」と忌々しそうに話します。取り込まれた者は、自分が現実世界から失われたことに気付かない、でも現実世界に残された者には、もしかすると誰かにとって愛しい存在がある日突然、神隠しにあったかのように消えてしまう、そんな理不尽さに対するギルダの怒りを感じずにはいられません。

夢幻世界から夢幻王国を作り上げた夢幻魔王イド。果たして最終的に現実世界の人々や町を取り込みつくしてまでも達成したかったその『夢』は何だったのか、ポポローグの世界は知れば知るほど、考えれば考えるほど深くなっていくので、これからも考察を積み重ねていきたいところです。

なお、ポポローグの元々のタイトルは、この画像が示すとおり、「ポポロクロイス外伝 夢幻魔王の王国」でした。ポポローグのタイトルに含まれている「ローグ」というのは、かつてはテキストベースでダンジョンがランダムに作成される、今から30年以上も前の1980年代のゲームでしたが、今でもこのシステムを使ったゲームが作られているというのは、つくづく凄いことだと思います。