132 モノクロの理由

2003年6月6日

 先月めでたく再発刊された田森庸介先生の原作「ポポロクロイス物語~知恵の王冠の冒険」、かつてのポポロの公式ページでもあったシュガー&ロケッツのホームページ上で公開されていたわけですが、やはり実際に本の重さを感じてワクワクしながらページをめくる楽しさには何物にも変えがたい喜びがあります。ただ残念なことにカラーであった部分がモノクロページで収録されてしまっているんですよね。その理由について、次巻への要望を含めて考えてみましょう。
理由だけを考えるのであれば話は簡単なんです。それは「1冊の価格が高くなってしまうから」。ただこれだけでは説得力に欠けますので、具体的にカラーバージョンにするとどの位価格が変わってしまうものなのかを概算する必要があります。まずは本を1冊作るのにどんな費用がかかるものなのかを工程から追いかけていきます。

工程など 作業内容
写植
組版
手書きで書かれた文字を活字にします。そして絵と合わせ、印刷するためのページ割りをした版を組みます。ちなみに活字にされたものが元の原稿と合っているのかを確認する作業を「校正」と呼びます。ここでしっかりと校正をしておかないと誤字脱字の原因になります。
製版 組版で上がってきた版をベースに、イラストを色分解(スキャニング)して次工程の刷版で使用するためのフィルム版を作ります。美術などで習ったように、色の3原色(青・赤・黄色)を混ぜ合わせればどんな色でも作ることができるのですが、実際にこの3色を混ぜてもはっきりとした黒色にはならないので、印刷する場合にはこの3原色に黒色を合わせた4色を用います。アドビのイラストレーター等で登場する「CMYK」とは、この4つの色「青=シアン=C」「赤=マゼンタ=M」「黄=イエロー=Y」「黒=kuro=K」(なぜか黒=ブラック=B、ではないんです)の頭文字を合わせたものです。色分解したイラストがもとのイラストと同じ色調で再現されているかを確認するためにこの時点で「色校正」を行います。この時点で文字訂正やイラスト差し替えが入ると大変!
刷版 製版で色分解されたフィルム版を元に印刷をするための版を作ります。プリントゴッコなどのシルクの生地にインクを通す部分通さない部分を焼き付けるようなものを想像してください。大量印刷する場合に布では耐久性がありませんので薄いアルミ板を使用します。
印刷 刷版で出来上がった版を印刷機にセットして、用紙に印刷します。印刷機にも色々あって平台機や輪転機、両面4色機やモノクロ機などなど仕様に応じて使い分けます。
加工 仕様に応じて用紙にエンボス加工をしたり薄いビニールを塗布します。
製本 印刷された用紙に、折・丁合・糊付け・三方裁ち・化粧断ちなどの加工して本の形にします。ポポロの原作本の場合、別に表紙カバーや帯が巻きつけられていますので、そういった加工もここで行います。
用紙 工程ではありませんが、用紙にも上質紙・再生紙・コート紙・マット紙・マットコート紙などなど膨大な種類の紙が存在します。同じ種類の紙でも当然厚い紙の方が値段は高くなります。

 

これらの工程のうち、モノクロであった本をカラー化した場合に関わりがでてくるのは、「製版」「刷版」「印刷」「用紙」の4項目です。その変化は次のとおり。

○製版

1色の版を「1版」と数えますが、原作本の場合表紙や口絵を除いた本文は全部でオールモノクロ272ページなので、製版の数としては272(ページ)×1(色)=272版となります。カラーにした場合にはカラーページが33ページで残り239ページがモノクロページとなりますので、製版の数としては33(ページ)×4(色)+239(ページ)×1(色)=371版となります。

○刷版

印刷する場合、概ね片面8ページの印刷が標準的なのですが、この8ページの集まりを「台」と呼んでいます。刷版の数としてはオールモノクロの場合272(ページ)÷8(ページ)×1色=34版となります。カラーにした場合、「台割」に基づいて計算すると(台割はややこしいので省略)必要な版数は58版となります。

○印刷

オールモノクロの場合は簡単で、
・表1色/裏1色の印刷が17台
カラーにした場合は
・表4色/裏4色の印刷が1台
・表4色/裏1色の印刷が6台
・表1色/裏1色の印刷が10台
という印刷の仕方になります。

○用紙

実際に使われる用紙の量は同じですが、印刷する色数が増えると、印刷ミスなどに備えるための用紙がその分必要となってきます。

こうした変化を考慮すると、3万冊単位で印刷した場合で300~400円位、1万冊単位では800~900円位、1冊あたりの原価が上昇することになります(注:あくまで概算です)。
じゃあ「定価2000円位にすれば元のとおりにカラーページはカラーで収録されるんですよね?」となるわけですが、ポポロファンオンリー向けの本であればいざ知らず、いろんな人に広く読んでもらえるようにすることを考えると、さすがに1冊の本にそこまでの価格を設定するわけにはいかないでしょう。とは言うもののやはりファンとしてはちゃんとカラーページはカラーで収録して欲しいと切望するのが人情。ということで書店販売用の通常版と通常版よりも当然価格は高いファン向けのカラー版の2種類を発売して欲しいと考えるわけですが、いかがなものでしょうか?もちろんこの場合にはどれくらいカラー版の希望があるのかをきちんとその数を把握しなければいけないんですけどね・・・。